静岡県・日本語ボランティアセミナー2017

2017年03月01日

イメージ画像

イメージ画像

イメージ画像

1月9日静岡県男女共同参画センター「あざれあ」(静岡市)で開催されました。年に一度、県内外から地域日本語教育に関わっている方たちや日本語ボランティアの活動に関心のある方が集まり、多文化共生社会や日本語ボランティアの活動に役立つ手法を学ぶ機会です。当日は、県内外から約200名が参加し、終日熱気にあふれた一日となりました。また、日本語教室を開いている15団体が自分たちの活動をパネル展示し、その内10団体の代表者が自分たちの教室活動の特徴や独自教材、団体として取り組んでいる内容などについて発表しました。来場者同士が情報交換し、課題を共有する機会となりました。

基調講演「地域の未来と日本語教育の役割 多文化共生社会をめざして」

講師:多文化共生センター大阪 代表理事 田村太郎氏

写真

インターネットの普及により情報が簡単に国境を超える時代になり、より快適な生活を送る地を選んで人々は世界中を移動するようになりました。講演の冒頭では、アジアに着目すると、日本では少子高齢化が進み各国から人々を呼び込む「プル」の力が強くなっている一方、経済成長が著しい国々では「プッシュ」が弱まっているというお話しがありました。日本がアジア唯一の経済大国と呼ばれた時代はとうに終わり、世界中で人材を取り合う時代を迎えた今、日本で暮らす外国人に対して着実な生活支援の仕組みをつくることが重要であるということです。田村さんは、日本に住む外国人の約2/3は活動に制限のない在留資格を持っていること、永住資格を取得する外国人が増加していることをふまえ、1.あってはいけないちがいをなくすこと 2.なくてはならないちがいを守ること 3.ちがいを大切にする社会をつくること の重要性を説かれました。さらに、そのためにも国の施策として日本語教育の充実が求められる一方、地域日本語教室の見直しについても触れ、語学力としての日本語習得よりも地域社会との接点の場として機能しているか、コミュニケーションが豊富な活動になっているか、現状の課題を示唆されました。また、日本語ボランティアは、学習者の生活課題を把握し、課題解決のためのプログラムを提供すること、日本語学習の先にある目標を明確にすること、さらにそれらを日本語ボランティアだけが理解しているのではなく、学習者と共有していることが重要ではないかと解説されました。地域日本語教室のコーディネーターは、学習者の生活背景や学習目的をふまえてそれらを支援できる人と的確にマッチングする役割を担うこと、地域日本語教室は学習者である外国人を支援される側としてのみ扱うのではなく、外国人も支援となって、力を発揮できるように発展させていくことが望ましいことが述べられました。
参加者からは、自分の日本語ボランティアの活動を見直したい、世界の動きから見る日本の外国人受入の現状と多文化共生社会について理解できた、等という感想が多数寄せられました。

分科会A「つながる、広がる、地域日本語教室 コミュニケーション力が育つ対話を中心とした活動」

講師:(一社)磐田国際交流協会 鈴木ゆみ氏 川添裕子氏

写真

まず、磐田国際交流協会が対話活動を取り入れた経緯についてお話がありました。積み上げ式の日本語のテキストでは、週1回の日本語教室で扱うには全てを終えるのに時間がかかりすぎること、日本語教室に来るタイミングが同じではない学習者に対して個別対応が難しいこと、また教室で習う日本語と、生活で使われている日本語にギャップがあることなどから、日本語教室の活動内容について疑問に感じていたということでした。そこで、いつ、どのような日本語力の外国人が来ても対応できるように、さらに外国人と日本人、日本語教室と地域社会をつなぐような活動を考えた結果、対話活動へたどり着いたということでした。対話活動では、生活に必要な情報や関心が高いことをテーマに取り上げ、外国人も日本人も対等な立場で対話をしながら互いに学び合います。そうして人と人の繋りを作って、地域社会の中で自分らしく豊かに生きることができるようになることを目指しています。
分科会では、実際に「買い物」をテーマとした対話活動を体験しました。まず、自己紹介、ウォーミングアップのためのゲームをしたあと、トピックを提示し、グループやペアになって「対話」を行いました。さらに、話したことや聞いたことなど、自分で言葉を目に見える形で「残す」ことが後に励みになったり、復習になったりすることから「ふりかえりシート」を使った書く作業の重要性についても学びました。最後に、教室を地域社会と繋ぐ行動・体験中心の教室活動についても事例の紹介があり、グループ毎に活動案を考えました。
参加者同士が一体となって対話活動を体験しましたが、日本人同士でもグループで色々な意見やキーワードが出ることに気づき、言葉の裏にある各人の気持ちや考えを知ることができるということに気づきました。そして、なにより対話をすることの楽しさを実感することができました。実際の生活に寄り添った内容であるため、教科書を積み重ねるより、より自然に日本語を身につけることができるということが分かりました。

分科会B「外国人の子どものことばを育む~子どもとの関わり方、支援の工夫~」

講師:文部科学省国際教育課外国人児童生徒等教育支援プロジェクトオフィサー 近田由紀子氏

写真

日本の公立学校に在籍する外国人児童生徒は73,289 人、その内日本語指導が必要な外国人児童生徒が29,198 人、さらに日本国籍で日本語指導が必要な児童生徒が7,897人(文部科学省平成26年度調査)おり、その数は増加傾向にあるということです。これらの子どもが抱えている困り感は様々であり、ことばだけでなく、異文化にあることの心理的影響や、成育歴や家庭内言語、就学前の環境などの影響もあるそうです。このような視点から子どもを理解して適切な支援が行われればよいのですが、うまくいかないと自己肯定感を失ったり、学習意欲の低下などにつながったりしかねないそうです。また、子どもがことばを育むための支援は学校だけでなく地域や家庭との協同が重要であること、支援者は、子どもの発達段階や実態をふまえ、一人ひとりの子どもと向き合いながら支援を考えていくことの大切さを学びました。さらに、近田先生は小学校教諭であったご自身の経験から、どのように指導計画を立て支援者がどのようなサポートをしたかお話しされました。その中で「苦手なことを埋めていくよりも、小さな“できた”を積み上げていくこと、興味関心を高めること、人とかかわるよさを大切にすること」が重要であるとアドバイスされました。講義の後半は、グループワークを通して地域支援者としてできることや、やってみたいことについても話し合いが行われました。
この分科会には、実際に子ども支援に関わっている実践者の方が多く参加しており、意見交換を通して子どもの問題や支援内容について情報共有する機会ともなりました。参加者の多くからは、悩んでいたことに対する解決の糸口が見えた、間接支援の大切さを再認識した、などという感想が聞かれました。

分科会C「漢字はアートであり、玩具であり、物語を語る」

講師:漢字教育士 ブレット・メイヤー氏(通称 ぶ先生)

写真

ぶ先生はアメリカ・ニュージャージー州出身で2012年10月に日本語漢字能力検定1級を取得し、論語指導士に挑戦するなど漢字に日々向き合っています。日本語への愛を感じる言動や気さくな人柄から、テレビやラジオにレギュラー出演するなど、「ぶ先生」として親しまれており、当日もファンの方が多く参加されていました。
講座の中では、漢字を愛してやまないぶ先生が、漢字の苦手などんな人にも興味を持ってもらいたいと、漢字のユニークな覚え方についてお話されました。例えば、「鴛鴦(おしどり)」という漢字は「鴛鴦夫婦(おしどりふうふ)」の由来となった中国の故事「鴛鴦(えんおう)の契(ちぎ)り」を表した漢字になっているそうで、このように難しい漢字も物語を思い出しながら書くことで、漢字の成り立ちや覚え方の工夫ができるという紹介がありました。後半は、漢字を使ったゲームをして、様々な角度から漢字を楽しみました。
<甲骨文字の創作>漢字の元となった甲骨文字は、絵文字のようにその意味を形で表しています。物の形や出来事の様子から甲骨文字を創造し発表し合うと、豊かな発想力に驚かされました。
<漢字の間違い探し>街中に張られたチラシやポスターの中に紛れている漢字の間違い探しです。日常生活でよく使う漢字でもよく見ると間違って使われていることがあることを知りました。ぶ先生が撮り貯めた写真を使って、ゲーム感覚で間違い探しを楽しみました。
<漢コレ!>漢字の「部首」と「旁(つくり)」を組み合わせて全く新しい「漢字」を作るボードゲームです。自由な発想からユニークな漢字を作り出し、盛り上がりました。
普段とは違った視点で漢字のことを考え、創造することで、漢字の魅力に気づかされる内容でした。漢字はそのまま暗記するものと思いがちですが、楽しそうに漢字へ取組むぶ先生のアイデアに促され、参加者もとても楽しそうに学んでいる姿が印象的でした。